カトリは、リカといっしょにクセラ屋敷へ向かった。途中、リカの知り合いのくず屋のおじいさんと出会ったが、二人の会話や態度を見て、リカが信用の置けない人のように見えて不安になった。夜になって、ようやくクセラ屋敷にたどり着いた。リカは、カトリを屋敷の中に押し込んでどこかへ行ってしまった。中から大きな女の人が出てきたが、起こされてプリプリしていた。そこへ奥様が出てきて、カトリを自分の部屋へ連れて行った。奥様は、カトリがここで働くために連れて来られたことを知らなかった。カトリは、奥様にこの屋敷で働かせてくれるようにお願いし、その夜は奥様の部屋で寝た。カトリは、翌朝、目を覚ますと、子供と話をする奥様を見て、農場の奥様にしては美しく上品なことに気づいた。奥様は刺繍が得意で、カトリに手芸やレース編みを教えてくれることにした。
奥様は、決して広間に出ず、食事もアリナに運ばせていた。カトリが広間に出ると、雇い人らはじろじろカトリを見た。この屋敷の雇い人たちはとても行儀が悪く、みんな好き勝手に振舞って、毎日、ごちそうを作って食べていた。一番わがまましているのはリカだった。カトリは、この屋敷には主人がいないことに気づいた。
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冬がやってきて、ある日、一台の馬車が屋敷に止まった。降りてきたのはこの屋敷に来る途中に会ったくず屋だった。なんと、その人がクセラ屋敷の主人だった。主人は、風呂に入って散髪をしてもらうと見違えるように見えた。主人の話では、戦争が起こっておるようで、夢中でみんなに戦争の話をした。奥さんは、外国船の話を熱心に聞きたがった。奥さんは、カトリに、自分の故郷のラウモの町の親類が、奥さんの作ったレース編みをスウェーデンに売り出したところ、スウェーデンの身分の高い人の間で大評判になったことを話した。 カトリは、毎日、奥さんと主人の生活を見て不安になった。主人は、奥さんの前では普通の態度だったが、広間の雇い人の間では悪ふざけをしていた。また、女中も主人にわざと手ぬぐいで主人の頭をぶったり、背中を指でつついたりして、主人もそれを喜んでいた。そのうち、主人はリカの住んでいる小屋に行ってしまって広間にあまり姿を見せなくなった。雇い人たちは、リカの悪口を言うくせに、ときどき、リカに呼ばれてごちそうになっていた。リカは、カトリだけは決して呼ばなかった。 |
リカの小屋に、時々、１４、５歳のリカの娘アドフィナが来ていたが、カトリは、女中たちの悪口を聞いて、その娘が主人の子供だということが分かった。カトリは、自分の母もそんなことで不幸になったので、主人に腹が立ち、また、悲しくなった。カトリのそんな姿を見て、奥さんが心配すると、カトリは、奥さんに母のことを話した。
雪が固まってそりが使えるようになると、主人はまた旅に出たくなった。広間でリカが出発の準備を手伝った。そこへアドフィナが派手な服を着てやってきた。雇い人たちがひやかして、アドフィナに、「そんな首飾り、誰にもらったの。」と言った。アドフィナは、「おとうさんにもらったのさ。」と笑って言った。カトリは、こんなにごった雰囲気はいやだったので黙っていたが、みんなが、「おまえさんは、耳をどうかしたの。」とからかった。カトリは、リカに、「この前、あなたから、アドフィナさんのお父さんは十年前に亡くなったと聞かされているので知りません。」というと、主人や下男ウィリアミ、マンダが、しゃれがわからぬやつだとからかったので、カトリは奥さんの部屋に逃げ込んだ。
主人の旅立ちの用意はたいへんにぎやかで、みんなおもしろがって主人にぼろの外套を着せた。
主人が、奥さんの部屋に出発のあいさつに入ってきた。主人が、「なにが不服でそう部屋ばかりこもっているのかね。」と怖い顔で言いかけると、部屋の隅にいるカトリに気づいて、「おまえに用事があるんだ。」と言って、部屋の外に出るように指示された。主人は、なかなか部屋から出てこなかったが、やがて、とてもむずかしい顔をしてカトリのところにやってきた。そして、カトリの髪をつかんで物置に引っ張っていって、「なんでも告げ口をするんだな。おまえは働くためにきたのになぜ広間でみんなといっしょにならぬのだ。」と言って、カトリを小突き回した。いつのまにかリカも来て、「奥さんいお世辞ばかりついて、いやな小娘だよ。おまえは私の女中に連れて来たのに。恩知らずめ。」とせせら笑った。
アドフィナが呼んでいるので、主人は走ってそりに飛び乗って出発した。カトリはひとり納屋の戸口で泣いていた。アリナは、「みんなリカの悪巧みだから。」とカトリを慰めて広間に連れて行った。アリナが、リカに、「このうちの主人って、どこまでもばかなんだろうね。悪い女に入れ知恵でどんなことでもするよ。」と文句を言うと、アリナとリカは髪をつかんだりひっかいたりの喧嘩をはじめた。そこへ奥さんが入ってきて、冷たい表情でリカをにらんだので、リカは広間を出て行った。奥さんは、ぼんやり立ちすくんでいたカトリを自分の部屋に連れて行った。カトリは、熱を出した。
その夜、アリナは、カトリを介抱しながら、奥さんにお詫びして、ウィリアミが好きなことを告白した。カトリは、二人が結婚してリカがこのうちから出ていくならうれしい、と言った。
（クセラ屋敷編・その２へ続く）